誕生日


私の母は家族の誕生日を
一度も忘れた事は無かった。
生きていた間は離れていても、子供、孫の誕生日には
必ず電話を掛けてきたものだ。


母が亡くなってからは父から電話がかかってくるが、
最近父は当日過ぎてから
「失敗、失敗!お母さんが生きていたら
 忘れることは絶対無かったのになぁ・・・
 カレンダーに皆の(子孫合わせて9人)誕生日を
 赤丸でちゃんと印しているのになぁ・・・」
なんて言うことが増えてきた。


今回は私には節目の年だったのに12時過ぎても電話が無く
私の方からかけてあげようかな・・・と、思ったが
まぁ、騒ぐ年でもなかろうし・・・
翌日、案の定
「失敗、失敗!夕方まで覚えていて
 風呂に入ってからかけようと思っていたのに・・・大失敗!」


全く60歳なんてねぇ?
まだまだ子供みたいな気がするのに・・・?
そういえば小学生の2・3年生ごろ
母の誕生日に素敵なブローチを贈りたいと思って
幼稚園の弟の手を引いて
バスでデパートまで買物に行ったことがある。
初めての遠出の大切なお買物!
汗をかいて二人で相談して買ったブローチを母は
「まァありがとう!なんて素晴らしいの!」
と、大感激して見せたけれど・・・
私は何故か母が本気で喜んではいないんじゃないかという気がした。
実際その後気をつけていたけれど
母がそれを身に付けたことは無かった・・・と、思う。


母が亡くなった後、後片付けをしていたら
そのブローチが大事に丁寧にくるまれて
母の宝石箱から出てきた。
それを見て直ぐ
「あー、母がこれを付けるわけないわ!」と、合点がいった。


あの頃は母はまだ30歳を出たばかりだったのに
50過ぎた私が見てもそのブローチは地味だったのだ。
私でさえこれは「60過ぎてからでも良いわ!」
という代物だったのだ!


全く母に可哀相な事をした!と、思いつつも、
丁寧にしまわれていたあのブローチは
多分いつか年相応になったら身につけようと
大事にしていたのだなぁ・・・と直ぐ分かったっけ。
この2月には83歳になっていたはずだのに・・・


明日父は87歳になる!