故郷


今朝から台風の影響でどんよりした鉛色の空が広がっている。
ベランダで咲き始めた朝顔は今朝は濃いピンクの大輪を
暗い空の下で健気に鮮やかに1輪だけつけていた。


朝顔って一日だけしか持たないのか?
昨日の花は咲かないのか?つまんないなぁ。」


「一日だけ朝だけだからいいってこともあるよ。
子供の頃小学校で朝顔栽培しなかった?」


「しなかったなぁ、そういえば垣根によく咲いていたが、
気をつけて見ることも無かったしなぁ。」


小学校の何年生か?自分たちで育てた朝顔の鉢を、
重い思いして夏休みに入る最後の日に持って帰ったことがあったなぁ。
「宿題の朝顔日記に、毎日何輪咲いたか数を書いたよ。」


そのベランダから見る空が
夕方の六時半を回ってから急に明るくなった。
空に変な明かりが差し込んだように
半分が美しい雲ひとつ無い空色になり、
半分に夕焼け色を帯びた雲が広がっている。
見とれていると、白い飛行機がユックリと斜面を滑るように
羽田に向かって降りていった。


「あァ、やっぱり東京の人間なんだ!私は!」
と、不思議に又納得していた。
子供の頃に見ていた風景とは全く異質の景色を見ているのに
この景色に故郷を感じるのは何故だろう?


全く一寸前までは住むなんて思っても居なかった
マンションのベランダからの光景に
故郷を感じている。
見えるものも、空気のにおいも、上がってくる喧騒も全然違うのに?
その不思議さに囚われているうちに
夜と灯かりが来た。