えすちゃんのおへそのお話


今日は朝からどんより曇って重い鉛色の空で、おまけにむしむし暑くて、
じっとり汗がにじみ出てくるいやなお天気です。
買物に行ってきたママは冷たい麦茶を飲んでほっとして、
積み木で遊んでいたわいちゃんとえすちゃんにも
おいしいりんごジュースを持って来てくれました。
裸ん坊で寝転ろがってテレビの野球を見ていたパパにも
冷たいコーヒーを持っていってあげました。
ママって本当に良く気が付くでしょう?


そのとき急にゴロゴロとお空が鳴りました。
「アッ、光った!」と、わいちゃんとえすちゃんが同時に叫びました。
暗かった空がもっと暗くなって、ピカピカッ、ドドドドーン、ごろごろごろ・・・!
本物のものすごい雷です。
わいちゃんとえすちゃんは窓にしがみついてお空を夢中で見ています。


「アッ、光ったぞ!落ちるかなぁ?すっげぇなぁ!これは大きい雷だぞ。」
「お兄ちゃん、雷って大きいの?」
「ウン、お家をつぶしちゃうくらい大きいんだぞ。」
ぼくんちよりも?」
「あったりまえだよぉー!片っぽの足で僕んちなんか踏み潰しちゃうんだぞ。
ねぇ、ママ、僕んちに入れないぐらい大きいんだよね?
今光ったのは大きいから角が二本のやつかなぁ?」


ママはちょっと複雑な顔をしてパパの隣に座りました。
わいちゃんは雷って二本か一本の角を持っていると思っていたんですね。
音が大きいほど大きな角の雷さまだと思っているわいちゃんに
雷をどう教えてあげたらいいのでしょう?
パパはただ黙っています。
パパの小さな時にパパの家に雷が落ちて、
火事になりそうになったことがあるので、
パパは本当は雷が大嫌いなのです。
パパは立ち上がって、シャツを着て、わいちゃんとえすちゃんに
「腹を出しているとへそをとられるぞ!」と、言いました。


パパの真似をしていつもお腹を出しているわいちゃんは
慌ててシャツを着てズボンの中にその裾をきちんと入れました。
パパの言葉が雷の大きな音のせいで聞こえなかったえすちゃんは
お腹をだしたまま、まだ窓辺で一心に稲光を見上げています。
ピカッ、どーん、がらがらがらがらどっしーん!!!
ものすごい光と音でした。
丁度外を見て、空が裂けるように光ったところを見てしまったママは
「わぁ、近くに落ちたわねぇ。」と、叫びました。
たちまち凄い雨になりました。
タチアオイが倒れ、雨の好きなアジサイたちも頭を垂れてしまいました。
ゆりの花もぽとりと落ちました。
花菱草の花壇は見ているまにとても哀れな姿になりました。


ようやく雷が止んで雨も上がった頃ママは
「誰もおへそを取られずにすんでよかったわねぇ。」と、言いました。
わいちゃんは慌ててシャツをめくって、
そこに立派なおへそがあるのを見つけて、にっこりしました。
パパまでお腹をめくってみて「おっ、あるぞ!」と、にっこりしました。
それなのにえすちゃんがお腹を見た途端、横にいたお兄ちゃんが
「あ、えすちゃんのおへそが無いッ!」と、大声をあげたので、
皆びっくりして、えすちゃんもびっくりして、慌ててお腹を見ました。
白くてぷっくり盛り上がったお山のようなえすちゃんのお腹には
ぽっかり穴が空いていたのです。


えすちゃんが泣き出しそうに顔を歪めた途端、
「なんだァ、あるじゃないか、穴の奥に!」
と、パパがすっとんきょうな声を上げました。
「えすちゃんのお腹太りすぎなんだよ。
おへそが穴ん中に埋まっちゃっているんだ!パパのお腹と一緒だぁ!」
えすちゃんとママとどっちが多くホットしたんでしょうね?
「牛乳とスイカのせいだわ。えすちゃんの太りすぎ何とかしなくっちゃ!」
と、パパのお腹のことはとっくに諦めたママはこっそり思いました。


ナイショですけれど、えすちゃんには絶対言いませんけれど、
本当はおへそはなくなってしまっていたんですよ。
えすちゃんには見えないからまぁいいでしょう!